視点の置き方―笑いヨガ提供者のスキル
オンラインサロン笑い道では、笑いヨガのリーダーや講師を対象に、毎月「笑トレアドバンス」という勉強会を開催しています。
笑いクラブなどでの笑いヨガのセッション、講師としてさまざまな場所やテーマで笑いヨガを提供する機会がある方に読んでいただきたい記事です。
経験や成長段階によって、課題は変わってきます。
2025年11月16日の勉強会は、「視点の置き方」というテーマで、それぞれの体験を踏まえた勉強会ができました。
その結果をまとめてみました。
視点の置き方で、場の質が変わる
笑いヨガリーダーの「見る力」を磨く
笑いヨガの仕事は、ただ「笑わせること」ではありません。
呼吸と身体の動き、声、アイコンタクトを通して、
参加者一人ひとりの神経系がゆるみ、
安全に「今ここ」に戻ってこられるような場を設計すること。
その場に入った人が、自分のペースで
・ちょっと表情がゆるむ
・胸や肩がふっと下がる
・ため息のかわりに、小さな笑いが漏れる
そんな変化を起こしていく、
プロセスを支えるのが笑いヨガリーダー/講師の役割です。
そのとき、
何を見ているか。
どこに視点を置いているか。
実は、この「視点の置き方」が、
場の安定感・安心感と深さに大きく関わってきます。
笑いヨガリーダーの役割
笑いヨガの場とは、笑いクラブだけではありません。いろいろな人が集まります。
- すぐ一緒に笑い出せる人
- 興味はあるけれど、様子をうかがっている人
- 「とりあえず参加した」けれど、心ここにあらずの人
- そもそも、笑うことに抵抗がある人
リーダーは、その全員を「ひとつの場」に受け入れながら、
安心・安全の枠(コンテイン)を保ち、
身体と心のエネルギーを整えていく役目を担っています。
そのために使うものは、
言葉、声のトーン、立ち位置、間、そして 「視線」。
今日はその中でも、
視点をどこに置くかを、少し細かく見ていきます。
視点の進化4段階
リーダーとして経験を重ねると、
自然に「視点の置き方」が変わっていきます。
ここでは、あえて少し整理して、
- 超初心者
- 初心者
- 中級者
- 上級者
という4つの段階で見てみます。
「どの段階が良い/悪い」ではなく、
単純に 一般的な成長のプロセス と考えてください。
① 超初心者:どこを見てよいかわからない時期
リーダーデビューしたばかりの頃は、多くの人が味わう感覚です。
- 参加者の顔を見たいが、目が合うと急に緊張する
- どこを見ていいかわからず、目が泳ぐ
- 「次、何をするのだった!?」と頭の中がいっぱいで、場が見えない
この時期の視点は、まだ 自分の内側 に向かっています。
「ちゃんとやれているか」というセルフチェックに
多くのエネルギーが使われるため、
場全体を観る余力がありませんので、ある意味で当然です。
この段階でできるいちばんの「対策」は、非常にシンプルです。
とにかく経験を積むこと。
知り合いに声をかけて小さな場を重ねる。
完璧な進行を目指さず、「一回やりきった」という経験を増やす。
視線が落ち着いてくるのは、
ある程度の「場数」がたまってからです。
ここは、焦らず淡々と「なれる期間」として扱ってよいと思います。
人前で話し慣れている人は、この段階が無い人もいますが、
多くの人が経験する段階です。
② 初心者:笑ってくれる人だけに視線が集まる時期
数を重ねて、少しずつ場に慣れてくると、
視点は、だんだん参加者に向き始めます。
この時期の特徴は、
「笑ってくれる人」に視線が集中する
ことです。
- よく笑ってくれる人
- 声を出して応えてくれる人
- アイコンタクトを返してくれる人
そういう人たちは、リーダーにとって
とても心強い「味方」です。
ただここで、ひとつ注意したいことがあります。
それは、そこに注目し、そういう人を中心に進めてしまうと、
「ノリのよい人だけの場になり、置いてけぼりをつくりやすい」
という点です。
前の方や一角だけが盛り上がり、
その他の人たちが「見学者」のような状態になると、
場の中に 温度差の層 が生まれます。
笑いヨガの目的は、
「ノリのいい人を増やす」ことではなく、
それぞれの状態に応じて 少しずつ一体感を感じ、ポジティブな変化をしていくこと。
その意味で、
視点が一部の人に固定されてしまうのは、
もったいない状態と言えます。
③ 中級者:笑っていない人に視点を持っていかれる時期
さらに経験を重ねると、
視野はぐっと広がります。
- よく笑う人の存在もわかる
- その一方で、「笑えていない人」の存在が気になり出す
ここで起こりがちなのが、
「笑っていない人」に視点が向くと、「何故?」と考え初め、
そこで自分のエネルギーが消耗する
という現象です。
「どうして笑ってくれないんだろう」
「私のやり方が悪いのかな」
「嫌がっているのかもしれない」
こうした思考が立ち上がると、
リーダー自身が緊張したり、ネガティブな感情をうつされ、
声のトーンや場のテンポにも影響が出ます。
ここで大事なのは、
- 笑っていない人を「見ないふり」しないこと
- しかし、笑っていない人を「なんとかしなきゃ」とがんばらない。
このバランスです。
④ 上級者:全体を観て、エネルギーを調整できる時期
上級者になると、視点の置き方が変わります。
- 個別の人が見えていながら、同時に「全体」を感じている
- よく笑う人・まだ硬い人・様子見の人、それぞれの状態を
評価ではなく 情報 として受け取る - 前・真ん中・後ろ、さらには左右まで含めて、
まんべんなく視線を往復させている
この段階のリーダーは、
「笑いのエネルギーが偏らないように、視点を上手に移し、微調整している」
と言えます。
誰か一人に視点が固定されることなく、場全体を自然に見渡せる視線の運びがあるはずです。
その上で、要所要所で
・盛り上げに貢献してくれる人
・まだ入りづらそうな人
に、それぞれ違う質のまなざしを送り、分離が起きないようにしています。
ステップアップのための具体的な「視点の使い方」
では、実際のセッションの中で、どんなふうに視点を練習していけばよいでしょうか。
1)超初心者:まずは「人を見る」経験を増やす
この時期は、細かいことは置いておいて、
- 参加者の顔を見る
- 目が合ったら、軽くうなずく、微笑むなど非言語コミュニケーションを試みる
- 顔だけではなく、姿勢や動作等の変化を観察。
を目標にします。
2)初心者 → 中級者:視点を「最低3人」に分散させる
ノリのよい人に助けられながら、全体の笑い易い雰囲気をつくっていく具体策です。
- 誰がノリが良く、協力的なのかを見極めます。
最低3人は見つけてください。笑う気満々の人は、最前列にいる場合が多いのですが、後方にいる人の中でも友好的な人を見つけておくのがポイントです。 - 進行中は、3人だけに捕らわれないようにするのはもちろんですが、定期的に彼らに視線を送り、彼らのエネルギーで周囲の人に笑いを伝染させるようにしてください。
こうすると、視線が自然に「場全体」を見渡しやすくなります。
視点を3点以上に分散させ、全部が見渡しやすくなります。
3)中級者 → 上級者:笑えていない人から「影響を受けすぎない」練習
笑ってもらいたいという意識が強いと、ネガティブ反応をする人を見てしまいます。
ポイントは、
「笑えていない人を視野に入れつつ、
笑っている人のエネルギーを増幅させていきながら、ネガティブエネルギーを包み込む」
ことです。
具体的には、こんな流れを意識してみてください。
- よく笑っている人が、ハイテンションになりすぎないよう、
- 徐々にエネルギーをアップさせ、
「まだ笑えていない人」がいたとしても、そのままで良いという信号を送る。 - 無理に笑わなくても良いということを、非言語・言語で伝える。
(プレッシャーを感じさせないようにする) - どんな自分でもOKという雰囲気をキープしながら、おおいに笑う。
このとき、心の中で
- 「あの人はダメだ」
- 「今日の自分は失敗している」
といった評価が立ち上がったときには、
自分の呼吸に意識を戻し、
笑いに集中し、一緒に笑って笑いを伝染しあえる人と呼吸を合わせましょう。
エネルギーの乖離をつくらない
笑いヨガの場では、
「よく笑う人」と「まだ笑えない人」が同時に存在しています。
笑いクラブは、笑いたい人が集まりますが、それ以外の笑いヨガセッションを求められる場では、当たり前だといえます。
そこには優劣も正解・不正解もありません。
その人の考え方、性格や、その日のコンディション、これまでの経験が、たまたま「いまの表れ方」として出ているだけです。
ところがリーダーの側が、
- よく笑う人=うまくいっている
- 笑わない人=なんとかしなければならない
というふうに、頭の中でグループを2つに分けてしまうと、場の中に「見えない境界線」が引かれます。
- よく笑う人は、「あれ? 笑ってない人に悪いかな」とどこか気まずくなり、
- 笑えない人は、「自分はできていない側だ」と感じて、ますます動きづらくなる。
これが、エネルギーの乖離です。
リーダーの役割は、本来その逆で、
それぞれ違うリズムでいる人たちが、同じ円の中に安心していられるように枠を保つことです。
つまり、
- 「よく笑う人たちの盛り上がり」をそのまま良しとしつつ、
- 「まだ笑えない人たち」が疎外感を感じたり、ついていけないと感じさせたりしないように、
- どの状態の人も、この場の一部として尊重する。
このスタンスが、エネルギーの乖離を生みにくくします。
そのとき、大事なことは、
リーダー自身が「誰が笑うか笑わないか」に囚われすぎないこと。
「あの人が笑っていない」「あの人の表情が硬い」と、一人ひとりの反応を「問題」として追いかけ始めた瞬間、ひとつの場を笑いで分かち合う流れから切り離されてしまいます。
「いま、この場には、いろいろな波の高さの人がいるな」
くらいの感覚で、違いを許容し、自分らしくいる。
それぞれが、自分のペースで近づいたり離れたりできる余白を残しておく。
そのゆとりが、場の安全性と深さを支えます。
今日からできる、小さな実験
ここからは、「誰が笑うか笑わないかに囚われない視点」を育てるために、
私自身がやっていることをベースにした小さな実験を紹介します。
① セッション前の1分メモ書きで「今日のゴール=目玉」をつくる
まずは、セッションの前に1分だけメモ書きをします。
- 今日は、何を届けたいのか
- どんな変化を期待しているのか
- 終わるとき、参加者にどうなっていてほしいのか
こんなテーマで、思いつくままに書き出します。
そのうえで、「今日の一番のゴール」を一つ選び、
それを 自分の頭の少し上に浮かぶ“目玉” のようにイメージします。
今日のゴール = 頭の上にふわっと浮かぶ「目玉」
この目玉は、会場全体を見渡します。
「今日はこの方向に場をすすめたい」という視点そのものです。
② セッション中は、「頭の上の目玉」に視点を置いておく
セッションが始まったら、
いちいち「今日のゴールは何だっけ?」と
自分の内側に潜って思い出そうとしません。
代わりに、
「自分の頭の上にある目玉が、ちゃんと全体を見てくれている」
とイメージしておきます。
リーダーとしての自分は、
その目玉が見ている方向に沿って、
自然に場をリードしていくだけです。
- 誰か一人の反応に引きずられそうになったときも、
「目玉は全体を見ている」と思い出す - 目玉の高さから、会場全体をふわっと俯瞰するような感覚で、
視野を少し広げてみる
こうすることで、
- 「うまくいっている/いない」を
自分の内側でジャッジするのではなく、 - 頭の上の目玉という“ひとつ上の視点”から、場全体を見る
という状態に、自然と戻りやすくなります。
③ セッション後の振り返り
終わったあと、また1分間でメモ書きを
「目玉から見えたもの」に限らず、
自分の中で印象的だったことを書き留めます。
例えば、
- 「前列の反応ばかり見ていた」
- 「途中から、“初めての人の緊張がどう変わるか”という視点で見ていた」
- 「頭の上の目玉を意識したら、個人よりも場全体の空気に目が向いた」
といった具合に、
その回の自分の“視点のクセ”に気づくための一行メモです。
正解・不正解をつけるのではなく、
「今日はこんな視点で場を見ていたな」
と淡々と観察していくことで、
少しずつ「自分の上に視点を置く」という感覚が育っていきます。
やることは、とてもシンプルです。
- セッション前に1分メモで「今日のゴール」をきめ、終了後になって欲しいことをイメージする
- セッション中は、頭の上の目玉が全体を見ているイメージを保つ
- セッション後に、1分メモで、気づきを書き留める。
この「視点を自分の上に置く」というイメージを持つだけで、
誰が笑うか笑わないかに振り回されず、
一体感のある場をつくることができ、自分のペースで場をホールドしやすくなります。








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