笑いヨガの哲学 〜笑いは生き方の選択〜
私たちは日々、さまざまな選択をしながら生きています。どんな服を着るか、何を食べるか、誰と過ごすか。
意識的に、あるいは無意識のうちに、私たちは絶えず何かを選びながら暮らしています。
中には、気づかぬうちに人生に大きな影響を与えている選択もあります。
それは、「目の前の出来事にどう反応するか」ということ。
これは、言い換えれば「どう在るか」を決める、生き方そのものです。
笑いヨガは、まさにこの“生き方の選択”に気づかせてくれる実践です。
笑いは感情の反応ではなく、意図的な行為。だからこそ、私たちは「笑うことを選ぶ」ことができるのです。
目次
1.「笑う」は選べる ― 動作をする意思

私たちはつい、外側の状況によって笑えるかどうかを決めてしまいがちです。
でも笑いヨガでは、状況に関係なく“笑うことを選ぶ”というアプローチをとります。
たとえば、気分が落ち込み、元気が出ないとき。笑いたいと思っても、落語やコメディ映画を観に行く気にはならないかもしれません。
そんなときこそ、まずは「笑ってみる」。
最初は作り笑いでも構わない。呼吸が深まり、声を出すことで、身体が反応し始め、やがて心にも変化が現れてきます。
これが、笑いヨガの考え方です。
「作り笑いなんて、心に嘘をついているようで抵抗がある」と感じる方もいます。
でも、長く笑いヨガを続けていく中で、「笑い」を感情ではなく呼吸法・動作のひとつとしてとらえてみると、その考え方が変わってきます。
「ハハハハ」と息を吐くことで横隔膜が動き、腹筋や胸筋が使われます。
これは、自然に笑ったときと同じ身体の反応なのです。
大切なのは、「笑うこと」そのものではありません。
「笑う動作」を通して、自分の内側に起こる変化です。
この変化は、自分の意思で呼吸を変えることで生まれます。
「人間には自分の状態を自分で整える力がある」
この実感こそが、日々を生きていく上での大きな安心感につながっていくのです。
2.Motion Create Emotion - 「身体が先、心があと」
笑いヨガは、ユーモアや冗談を必要としません。
ここが、とても画期的なポイントです。
「笑いはユーモアに対する反応」と考えられてきましたが、笑いヨガでは「まず身体を動かす」ことから始めます。
実際、初めて笑いヨガに触れた人の多くが、最初は戸惑いを感じます。
興味を持って参加した人は戸惑いはあっても素直に体験してくれますが、講演会や会合などで突然やることになった場合は、「バカバカしい」「こんなの無理」と思う方も多いです。
それもそのはず。「面白いから笑う」という価値観が、私たちの中に根深くあるからです。
でも、身体が先に動けば、心はあとから変わっていきます。
これは、心理学や脳科学の分野でも認められている事実です。
笑うという動作を通じて、脳は「楽しい」「安心している」と判断し、エンドルフィンやセロトニンといった幸せホルモンを分泌します。
結果として、ストレスホルモンは減少し、免疫力が高まり、心も前向きになるのです。
つまり、笑いヨガは「感情に左右されず、自分自身の状態を整える方法」。
心が動くのを待たず、身体からアプローチするという点に、大きな意味があるのです。
3.笑いが生むつながり

もう一つ、笑いヨガの核心にあるのが、「つながり」という視点です。
精神科医の樺沢紫苑先生の著書『3つの幸せ』の中では、笑いはオキシトシン的幸せであると述べられています。
人とのつながりによって得られる、安心感やあたたかさを意味しています。
現代社会では、便利さと引き換えに、人と人とのつながりが希薄になりがちです。
孤独感や疎外感を抱える人も少なくありません。
笑いヨガは、グループで一緒に笑います。
これは、言葉を超えたコミュニケーションの形です。
言語や文化、立場を越えて、ただ一緒に笑う。
その瞬間、人と人との垣根がふっと低くなり、「私たちは仲間なんだ」という感覚が自然に生まれます。
アイコンタクトや手拍子を合わせることで一体感が生まれ、信頼や安心感も育ちます。
それは、家庭、職場、介護や教育の現場など、あらゆる場面で大きな変化を生み出す力となります。
4.今ここにいるという体験

笑っているとき、私たちは「今・ここ」にいます。
過去を悔やむことも、未来を心配することもありません。
ただ、今、この瞬間に意識が向いています。
特に、笑いヨガセッションの最中は、次々といろいろな笑いの体操が繰り出されるため、思考が止まりやすくなります。
この状態は、まさに「マインドフルネス」に近い体験です。
笑うというシンプルな行為が、私たちを思考のループから解放し、今の自分に立ち戻らせてくれる。
笑いヨガは、誰にでもできる「動く瞑想」と言えるでしょう。
5.無邪気さを取り戻す
子どもの頃は、私たちは特に理由もなく笑っていました。
走っては笑い、転んでも笑い、大好きな人や動物を見て笑う。

でも大人になると、笑うことにも「理由」や「意味」を求めるようになります。
「今笑ってもいいのか?」と、無意識に判断してしまうのです。
笑いヨガの場では、その「無邪気さ」を大切にしています。
普段しない変な動きも大歓迎なのです。
真面目にふざけることができる場所が、笑いクラブや笑いヨガセッションなのです。
そこでは、評価や正しさから自由になり、自分自身の内側の奥深くに長い間眠らせていた「遊び心」や「好奇心」が目を覚まします。
それはやがて、自分自身を肯定する力となり、生きる喜びへとつながっていきます。
6.笑いは生き方の選択

笑いヨガは単なる健康法ではありません。
それは、「どう生きるか」という姿勢に向き合う、深い実践です。
怒りそうになったときに、ひと呼吸おいて笑ってみる。
不安に飲まれそうになったときに、体を動かして声を出してみる。
人を責めそうになったとき、共に笑える余白をつくってみる。
そんなふうに、「笑い」を反応の選択肢として持っているだけで、人生の景色は大きく変わります。
私たちは、いつでも笑うことを選べる。
笑いは、その日の気分や状況に左右されず、自分自身の力で人生を整える手段なのです。
おわりに
笑いヨガの哲学は、とてもシンプルで、そして奥深いものです。
笑うことを選ぶ。
つながることを受け入れる。
今、ここにいる。
自由な自分を思い出す。
それらすべてが、「どう生きるか」という問いへの答えになっているのではないでしょうか。
笑いは、静かに、でも確かに、私たちの生き方を変えてくれる。
これからの時代、ますます複雑でスピードの速い社会において、笑いは「人間らしく在るための選択肢」として、ますます大切にされていくのではないでしょうか。
笑いヨガは、その選択を練習する場所なのです。
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